仏画コラム
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51,高雄図像/高雄曼荼羅/諸説不同記

高雄曼荼羅 吉祥寺本 金剛界 九会

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高雄曼荼羅 吉祥寺本 大悲胎蔵生

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兼意本白描図像 長承3年(1134)に基ずく 心覚伝領護持 高雄図像両部曼荼羅

令和5年(2023年)は弘法大師空海が御生誕なされ1250年に、そして真言宗をお開きになら
れまして1200年を迎える大変吉祥な年でございます。              
弘法大師の三大霊跡と言われます御生誕の地、香川県善通寺では4月23日~6月15日まで
大法会が執り行われ、又御入定の地、高野山金剛峯寺では「いのちよ輝け~大師のみこころ
と共に~」のスローガンのもと5月14日~7月9日まで記年大法会が執り行われました。
又立教開宗の地、京都東寺では「尽きぬ願いに祈りは続く」を大法会のスローガンとされ、
慶讃大法会が10月8日~10月14日まで執り行われる事となっております。三大霊跡のみ
ならず、各地の真言宗各大本山では大法要が執り行われており、誠に吉祥な年でありお慶び
申し上げます。さて
大進美術では両界曼荼羅につきましては、各種制作しておりますが、既に東寺様の御許可を
戴き、彩色系の現図、東寺元禄本両部曼荼羅を頼富本宏先生監修のもと1200年を記念して
制作販売させて頂いております。元禄本は、現在も正月の御七日御修法に本尊として兼用さ
れている真言密教の正系、請来本系の最重要な曼荼羅でございます。本年は他方の白描系の
高雄曼荼羅(兼意白描図像)を基にした高雄図像/高雄曼荼羅、御室版高雄曼荼羅の制作で
あります。詳しく説明致しますと、国宝の高雄曼荼羅は6年に及ぶ修復が完成し2023年5
月10日神護寺において開眼法要が厳修されました。
諸説不同記は法三宮真寂(886~927)が胎蔵曼荼羅に現れた360余の各尊について「現図」に
基ずき像容を記述したものであり、この現図とは空海が延暦25年(806)に中国から持ち帰
った金胎両部曼荼羅の胎蔵曼荼羅を指す。この原本は空海在世時から損傷が進んだようであ
り、今日、原本を忠実に伝えるとみられるのは、空海が神護寺灌頂堂に安置すべく金剛界曼
荼羅共々天長6年(829)に制作したと推定される紫紺綾地に金銀泥をもつて描かれた神護
寺本の高雄曼荼羅である。しかし高雄曼荼羅の現状は絵絹の破損剝落が著しく、そこに描か
れた各尊の図様の詳細を肉眼で確認することは困難を極める。むしろ各尊の図様の詳細を知
る事が出来るのは、長承3年(1136)に兼意が(高雄金泥曼荼羅)の諸尊を模写した白描本の
系統に属する長谷寺本(巻子装)と高山寺伝来本(帖装)であり、さらには後者を底本とし
て明治2年(1869)に開版された御室版両部曼荼羅である。そうとみるとき諸説不同記は文
字資料であるものの、兼意による高雄金泥曼荼羅の図様模写を約200年遡り、かつ、現図胎
蔵曼荼羅の彩色諸尊について詳述した現存最古の資料ということであり重要であります。こ
の諸説不同記の活字本には、京都東寺観智院金剛蔵に伝来した融運の奥書を持つ、現存最古
の完本である建武2年(1335)の写本十帖を底本として、昭和8年(1933)活字翻刻された
大正新脩大蔵経図像第一巻所収本、(大正蔵本)P17~P118があります。その後大正2年
(1913)に仏書刊行会から刊行された大日本仏教全書の二つがあるのですが、比較検討しま
すと、記述誤写がかなりあり、諸説不同記はその両方を対照しながら読まなければ記述の法
則が理解できない。又所説不同記に書かれる現図を検証した時、それは従来言われてきたよ
うな大曼荼羅ではなく、尊像とともに漢号、梵号、密号が記入される曼荼羅であることが分
かり、現在流布している胎蔵曼荼羅の解釈を示していることが分かつた。各尊像は、大蔵経
図像部一、P887~1004、金剛界九会大曼荼羅、仁和寺版、P627~815、大悲胎蔵曼荼羅、仁
和寺版、を参考にして制作いたします。
最後になりましたが、尊像の彩色について説明いたします。国宝の神護寺の高雄曼荼羅は紫
紺地に金銀泥で描いた光輝表現による曼荼羅であり、彩色本ではなく、今回の曼荼羅は彩色
本仕上げです。空海請来本は、東寺にて1200年の間に4回ほど転写をされていますが、す
べて極彩色による彩色本であり、空海の御請来目録にあるように、恵果阿闍梨の言葉どうリ
「密蔵は深玄にして翰墨に載せ難し図画を仮りて悟らずに開示する。」、「真言秘蔵の経琉
は隠密にして図画を仮らずんば相伝すること能わず」又、高雄図像に記載された尊像の色、
蓮台の色などを考慮致しますと、極彩色本がふさわしいとの結論に至りました。そこで現存
する極彩色本の中で請来本を手本として制作された高野山の血曼荼羅、久安5年(1149)は
空海御請来本より344年後に描かれたもので、1番古いものであります。近年では尊容のデ
ジタル画像処理、剝落損傷、歪みの激しい尊容に対してデジタル修復などを施されていま
す。それは数世紀を経て歪んだ尊容を制作時に近い状態に補正することで比較制度を高める
方法です。金剛峯寺の血曼荼羅の修復は、2007年より開始されており、8年かけて、2015
年に修復を終えています。その際に原寸大と縮小版の二つの曼荼羅が高野山霊宝館で特別一
般公開されています。この血曼荼羅は日本に現存する最古の彩色曼荼羅といわれておりま
す。修復では、劣化に伴い不鮮明であつた部分までもが、鮮明に再現されており、850年間
一度も知られることがなかつた色艶までもが明らかにされております。よってこの彩色本を
採用いたしました。

参考文献、諸説不同記と現図胎蔵曼荼羅 東京文化財研究所
研究論文 所説不同記に説かれた現図 入江多美先生

制作致しました高雄曼荼羅は、吉祥寺本として、真言宗善通寺派別格本山 吉祥寺(佐賀
県) 法主篠原寛明住職に弘法大師御誕生1250年祭を記念して9月吉祥日に納品致しま
す。篠原寛明ご住職には多大なご協力を賜りました事を改めてお礼申し上げます。
制作仏画  大進美術株式会社

大進美術 大日寺 真鍋博士