仏画コラム
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25-2 理趣経曼荼羅尊像の相違点
金剛界九会曼荼羅理趣会と 理趣経十七清浄句曼荼羅の尊像の相違点
理趣経曼荼羅の八供養女を金剛界曼荼羅の八供養菩薩と比較すると、三つの相違点あり。
1、内外の四供養菩薩が 入れ替わる。
2、香・華・燈・塗が 華・香・燈・塗に入れ替わる。
3、鬘菩薩が 笑菩薩に入れ替わる。
1、の理由については真実摂経では香・華・燈・塗の四供養は四仏によつて供養された大日
如来の妻妾、嬉・鬘・歌・舞の四供養は、金剛薩埵、金剛宝、金剛法、金剛業の四転輪
王菩薩の妃と考えられている為に大日如来に替わつて金剛薩埵が中尊となつた理趣経十
七尊曼荼羅では、内外の供養女が入れ替えられた。
2、の理由について十七尊曼荼羅を説く金剛薩埵儀軌類の中でも普賢瑜伽からの略出である
とされる一切時方成就軌と普賢軌では華・香・燈・塗の四供養が、春・雲(夏)・秋・
冬の四季の名で呼ばれ、これら四尊は金剛薩埵の四季恒久の大楽を表すとされますが、
四尊の持物には金剛界曼荼羅の香華燈塗のものがそのまま踏襲されています。そこで四
季の供養菩薩とした場合、花の咲く春の菩薩の持物には、華菩薩がふさわしく、雲
(夏)菩薩の持物には香煙をたなびかせる焼香がふさわしいため香菩薩と華菩薩の順番
が入れ替えられ、華・香・燈・塗の順番となつた。
3、の理由については、現時点ではその理由を示す資料は見つかつていませんが、十七尊曼
荼羅を説く儀軌の中には五秘密尊のうちの慢金剛菩薩が華鬘を持つと規定するものもあ
る為、持ち物の重複を避けて、同様に華鬘を持つ鬘菩薩をやめ、金剛界曼荼羅におい
て、鬘菩薩と同じく宝部に属する金剛笑菩薩を女尊化し、新たに供養女として加えた。
四門護の鉤・索・鎖・鈴の四菩薩は、金剛界曼荼羅の四摂菩薩でありますが、但し一部
の儀軌では四菩薩が色・声・香・味の名で呼ばれることが有りますが、この様に呼ばれ
るようになつたのは、十七尊曼荼羅の影響によつて、理趣経の清浄句が十七に整えられ
て、門護の四菩薩に色・声・香・味の清浄句が配当され、会通が図られてから以降の事
と思われます。
十七尊曼荼羅は理趣経の曼荼羅と言われながら、最も遅れて成立したと思われる理趣広
経を除き、理趣経のいずれの類本にも言及されていない。十七尊曼荼羅が実際に説かれ
るのは、金剛薩埵儀軌類と呼ばれる金剛薩埵の成就法を主題とする一連の儀軌群におい
てのみなのです。理趣経と金剛界曼荼羅を説く真実摂経の間には、多くの共通点が有り
内容の大部分が一致しています。真言密教の伝統説では、不空三蔵の十八会指帰に真実
摂経が初会、理趣経が第六会として紹介されているため真実摂経が理趣経より先に成立
したと考えられてきましたが、最近の研究で、第六会の大安楽不空三昧耶真実瑜伽が理
趣経が真実摂経の成立以降、その影響を受けながらより展開した形態である理趣広経の
前半部分に相当する事が明らかになつています。

参考文献、理趣経十七尊曼荼羅の成立について 川崎一洋博士