仏画コラム
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4-2眞海所伝の理趣経曼荼羅と印融所伝の理趣経種子曼荼羅

印融所伝

仏画

金剛智所伝             眞海所伝

仏画

眞海所伝の理趣経曼荼羅とは、1770年頃、高野山補陀洛院、眞海僧正開版の曼荼羅で、師
が宗叡請来の曼荼羅図等に依つて理趣釈の説に一致しない点を改訂図画した曼荼羅で、その
最初に喜悦愛染明王を描いて理趣経法門はこの愛染明王の内証なることを顕した曼荼羅であ
る。この曼荼羅が講伝用の曼荼羅として採用されたのは理趣釈の説と一致し、顕露秘密の中
生に位する曼荼羅で講伝用としてもつとも適当な曼荼羅であるからである。一方印融所伝の
曼荼羅は相承説に近い曼荼羅で、古来講伝家の根本をなすもので、人によつて多少の異なり
はあるが道實・宥範・頼慶等の諸師を始め多くの注釈書はこの曼荼羅に依つている。相伝曼
荼羅を特に印融所伝と名付け講伝曼荼羅の底本としたもので、「理趣経秘密曼荼羅」と名付
けられて注釈書から別立てで流布した
印融( 1435~1519)は外出するには牛に文箱を掛けて乗り、一刻も書物を離さない為、
   帰依する者多く関東八州の六十余の談林では師の肖像画を掲げて毎年供養する。
【眞海所伝の理趣経曼荼羅】
眞海所伝、重説理趣・理趣経重説の身密に依つた図像曼荼羅。
・東方・金剛手菩薩~初段重説理趣に「左手作金剛慢印、右手抽擲本章初大剛」
                  と言う文に依り。
・西方・観自在菩薩~第四段の重説理趣に「作開敷蓮花勢観慾不染」と言う文に依り。
・南方・虚空蔵菩薩~第五段の重説理趣に「以金剛寶鬘自繁其首」と言う文に依り。
「中央晝虚空蔵菩薩如来形」と理趣釈に述べているから胎蔵曼荼羅、虚空蔵院の形に依り。
・北方・金剛拳菩薩~第六段の重説理趣に「持金剛拳大三昧耶印」と言う文に依り。
・東南方・文殊菩薩~第七段の重説理趣に「以自釼揮所一切如来」と言うのを五鈷杵
                    に依り顕し。
・西南方・纔発心転法輪菩薩~第八段の重説理趣に「轉金剛輪」と言う文に依り。
・西北方・虚空庫菩薩~第九段の重説理趣にはその印相等を説いていないから、理趣釈に
「中央晝 虚空庫菩薩「右手持羯磨杵 左手作金剛拳 按於左胯」と言う文に依り。
・東北方・墔一切摩菩薩~第十段の重説理趣に「持金剛牙恐怖一切如来」と言う文に依り。
内院に九尊を描き、さらに前塙の理趣釈の文に「如是等大菩薩衆 恭敬圍逵 八供養及四門
菩薩等」と言う文に依り。
第二重の四隅に四供養菩薩の三昧耶形と四方に四摂菩薩の三昧耶形を描き、
第三重の四隅に四供養菩薩の三昧耶形を描き、内院第一重の能説の三昧を顕す。

【印融所伝の理趣経種子曼荼羅】
印融所伝、重説理趣・理趣経重説の語密に依つた種字曼荼羅。
内院に八葉蓮華台を描き、その中台の上に胎蔵界・大日如来の種字を描き、その八葉上に理
趣釈の図位の如く八大菩薩の種字を描くこの八大菩薩の種字は、
・東方・金剛手菩薩~  の種字は初段・三段・十一段・十七段の
                   重説理趣に説く(惡・あく)字に依り。
・南方・虚空蔵菩薩~  の種字は五段の重説理趣に説く(怛覧・たらん)字に依り。
・西方・観自在菩薩~  の種字は四段の重説理趣に説く(紇唎・きりく)字に依り。
・北方・金剛拳菩薩~  の種字は六段の重説理趣に説く(噁・あく)字に依り。
・東南方・文殊菩薩~  の種字は七段の重説理趣に説く(菴・あむ)字に依り。
・西南方・転法輪菩薩~ の種字は八段の重説理趣に説く(吽・うん)字に依り。
・西北方・虚空庫菩薩~ の種字は九段の重説理趣に説く(唵・おん)字に依り。
・東北方・墔一切摩菩薩~の種字は第十段の重説理趣に説く(郝・かく)字に依り。
またこの八大菩薩の座位として八葉蓮華台を描くことについて
(能住は金剛界の菩薩、所住は胎蔵蓮華として 金胎不二 を顕したものである。)
眞海所伝と印融所伝の異なる所は、第三重の四方に於いて、
・東方・摩醯首羅天~外金剛部の十二段重説理趣の(怛唎・とうり)字を取り。
・南方・摩訶迦羅天~七母女天の十三段重説理趣の(毘欲・びよー)字を取り。
・西方・梵天~   三兄弟の十四段重説理趣の(娑縛・すばー)字を取り。
・北方・都牟盧天~ 四姉妹女天の十五段重説理趣の(㟏・はーむ)字を取り。
印融所伝の理趣経曼荼羅は四天の種字を描き加えていることで、四天を描くことは古来等
説明がないが、おそらく八大菩薩と同じ重説の主として、十二段己下、四段の法門を説くか
ら 能説曼荼羅 の集会に描き加えたものである。
理趣釈に十二段曼荼羅「毘盧遮那為、世間同類摂化説、摩醯首羅中央畫、摩醯首羅如来形」
    十三段曼荼羅「此天等亦有、曼荼羅中央畫、摩訶迦羅」
    十四段曼荼羅「此天亦有、曼荼羅畫、如弓形三天次第、是而畫」
    十五段曼荼羅「此四天亦有、曼荼羅中央畫 都牟盧天 此天四姉妹之兄也」
能説曼荼羅は理趣経序文の説会の主判を顕すと同時に當経十七段の説主を描いたものである
から特に能説曼荼羅と名付けられたもので、不空釈には重説理趣を説いて八大菩薩自ら自己
内証を説く事を明かし密教に於ける 自受法楽 各説三密の相を如実に示している。
理趣経は般若経典であり、この理趣釈は般若経典を背景とし、金剛頂経系の密教の立場で 
理趣経を解釈したものである。胎蔵法を註釈した大日経琉と共にもつとも重要な密教聖典。 
しかし文献的、思想的研究も重要なことではあるが、本来仏陀教説の最大の目的は、一切衆
生の救済に尽きるので、仏陀の教義の根本を前提として考察すべきである。