仏画コラム
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4-3理趣経曼荼羅の解説
「理趣経」の説かんとする所、「大楽の世界」に生きること、その理想を如何に実現してい
くかを、八大菩薩等の密教的象徴を借りて説明する。般若思想の「空」体験を密教的な思想
の上に展開した。そうすると、金胎不二の両界曼荼羅を背景に考察が必要である。一見、
「理趣経」曼荼羅は、金剛界曼荼羅の発展のごとく見、またその性格を持つのであるが般若
思想を中心に仏教体系を総合した大悲胎蔵曼荼羅の構造や八幅輪構想を見逃してはならない

宗叡請来の理趣経十八会曼荼羅の 序文・大日尊理趣会(説会)と、初段・金剛薩埵理趣会
と、二段・大日尊理趣会をよく考察すると、序文は、中尊定印の胎蔵大日如来曼荼羅であり
周りには、金剛手菩薩・観自在菩薩・虚空蔵菩薩・金剛拳菩薩・文殊師利菩薩・纔発心転法
輪菩薩・虚空庫菩薩・墔一切摩菩薩の八大菩薩が描かれています。
序文・大日尊理趣会(説会)の曼荼羅こそが「理趣経」の記述通りであり、最つとも「理
趣経」の本尊として相応しい曼荼羅といえます。これに、外金剛部諸天の種子を描き加えた曼
荼羅が理趣経総曼荼羅と言われるもので、古来より、講伝曼荼羅の底本とされ、相承説に近
い曼荼羅で印融所伝の理趣経秘密曼荼羅と名付けられ注釈書から別立で流布した。
初段の金剛薩埵曼荼羅は、五鈷と五鈷鈴を持す金剛薩埵が中尊の曼荼羅であり、周りには、
欲・触・愛・慢、 香・華・燈・塗、 嬉・鬘・歌・舞、 鉤・索・鎖・鈴の十七尊が描か
れる、所謂金剛界の理趣会の曼荼羅であり、十七清浄句曼荼羅です。この曼荼羅は「八千偈
の般若経」に於ける菩薩の句義より発達し、これを象徴化したるもの。理趣釈で取り上げら
れた十七字の真言は、普賢金剛薩埵略瑜伽念誦儀軌、金剛薩埵五秘密修行念誦儀軌の二本以
外にはなく不空三蔵の創作である。
二段の大日尊理趣会は中尊智拳印の金剛界大日如来曼荼羅であり、周りには、阿閦・宝生・
阿弥陀・不空成就、の四智、嬉・鬘・歌・舞、 香・華・燈・塗、 鉤・索・鎖・鈴の十七
尊であり、金剛界の四印会を借りて総論的に示したものです。
通常「理趣経曼荼羅」と言えば九会の金剛界曼荼羅の理趣会(十七清浄句曼荼羅)が頭に浮
かびますが、金剛界曼荼羅の理趣会の曼荼羅の中尊は、金剛薩埵であり、定印の大日如来で
はありません。「理趣経」には、説主金剛大毘盧遮那如来、場所は欲界他化自在天王宮であ
り、また八大菩薩の教理や外金剛部天の教理では、大悲胎蔵曼荼羅の中台八葉院・金剛手
院・観音院・文殊院・虚空蔵院・外金剛部院 にて尊像で示されています。
理趣経十八会曼荼羅の全体を貫いているのは金剛界形式の曼荼羅ではあるが、阿閦、宝生、
阿弥陀、不空成就等の四仏の代わりに大悲胎蔵曼荼羅の釈迦院、虚空蔵院、観音院、金剛手
院の主尊たるべき、降三世、虚空蔵、観自在、金剛拳の四菩薩を配置している事である。
大悲胎蔵曼の尊を代置し金剛界形式に造る事は金胎不二の哲学体系をもつて理趣経を解釈し
なければならぬ事を教えている。それは、「理趣経」は、大般若経600巻中の578巻、般若
理趣分の内容を密教的に発典整理された般若経典だからです。よつて、「理趣経」の本尊に
は、説会曼荼羅(理趣経総曼荼羅)が最つとも相応しいという事になります。
説会の曼荼羅は、「理趣経」の序文の主伴を表すと同時に、「理趣経」十七段の各曼荼羅の
説主 を描いたものであるから特に 能説曼荼羅 と名図けられたもの。この曼荼羅が何れ
も十七段所説の 重説理趣 によつて描かれている事情を考えるとき、この序文の説会曼荼
羅の重要性を改めて認識すべきと考えます。この理趣経の異釋に金剛智三蔵の薦福寺金泥曼
荼羅が存在していますが、特に不空三蔵釋を採用して、理趣経血脈から金剛智三蔵を除いた
ことは、実にこの不空三蔵釋には 重説理趣 を説いて、八大菩薩自ら自己内証を説くこと
を明し、密教に於ける 自受法楽各説三蜜の相 を如実に示すことにある。その意味で他の
段の各曼荼羅と説会とは別物であり、特別な曼荼羅と言える。
不空三蔵の構想の基は金剛智の薦福寺の金泥曼荼羅と考えられ、理趣経曼荼羅及び不空の理
趣釈の祖典の図像と構想であると考えます。
金胎不二思想をもつて、理趣経を解釈し左側に八幅輪構想にて胎蔵の定印の大日如来を中心
に八大菩薩を描き、下に二段大日尊理趣会、三段降三世理趣会、四段観自在理趣会、五段虚
空蔵理趣会、六段金剛拳理趣会、七段文殊師利理趣会、八段金剛輪菩薩理趣会、九段虚空庫
菩薩理趣会、十段墔一切摩菩薩理趣会と八大菩薩論を説明する。
右側に金剛薩埵を中心に金剛薩埵曼荼羅(十七清浄句曼荼羅)を描き、これは空海請来本曼
荼羅の金剛界九会の理趣会であり、下に十一段金剛手菩薩理趣会、十二段摩醯首羅天理趣
会、十三段七母女天理趣会、十四段三兄弟天理趣会、十五段四姉妹女天理趣会と外金剛部諸
天を描き八大菩薩成就論を説明する。
理趣釈の最も肝要であると考えられる十六段五部具会、十七段五秘密会、を左下部に描く。
十六段、十七段は、不空の理趣釈には載せていないが五部具会と五秘密は金剛頂瑜伽経十八
会指帰に依れば、金剛頂瑜伽経に十万偈・十八会有り、・・・として十八種類の瑜伽の総称
として(金剛頂瑜伽経)なる名称を使用していることが確認される。
十六段五部具会(四波羅蜜曼荼羅)は一切教集瑜伽経よりの引用であり、具体的には金剛智
の薦福寺の金泥曼荼羅である。また十七段も一切教集瑜伽経よりの引用であり、吉祥最勝本
初儀軌、金剛薩埵布絵曼荼羅であり、五秘密曼荼羅である。これは五部具会曼荼羅の四隅に
配置される四部の内、東南隅に配置される金剛部の五秘密曼荼羅であり、理趣釈中には載せ
てはいない。
理趣釈で取り上げられた十七字の真言は,普賢金剛薩埵略瑜伽念誦儀軌、金剛薩埵五秘密修
行念誦儀軌の二本以外にはなく不空三蔵の創作である。
「理趣釈」で(十七清浄句曼荼羅)はこの真言を十七字に分け十七尊に配当、この十七字真
言所変の十七尊曼荼羅は、他に対して特異な存在である。
唵  摩賀素佉 縛日羅 薩怛縛 弱 吽 鑁 斛 素羅多 薩怛鑁
1   234   567  8910  11 12 13 14  1516  17

不空三蔵、741年金剛智滅後、スリランカに於いて十万頌(じゅうまんじゅ)と形容される
法門を習得、十八会金剛頂瑜伽法門及び毘盧遮那大悲胎蔵等である。
合計七十一部、一百八巻に及ぶ。最も重要な要素が、十八会金剛頂経であるが、不空三蔵訳
の文献が必ずしも純然たる訳出ではなくむしろ旧訳の陀羅尼や大乗経典を瑜伽部密教化する
上で「十八会」と形容される金剛頂経系に儀軌構成を大幅に導入して、改訳した傾向が濃厚
な為、簡単に訳出することは困難である。
訳出には、金剛頂瑜伽真実大教王経~三巻,選述には理趣般若経~一巻など金剛頂瑜伽真実
大教王経には五仏、十六大菩薩、四波羅蜜(三昧耶形)、内外八供養菩薩、四摂菩薩、賢劫
十六尊の計53尊の曼荼羅を説く。
理趣般若釈は唐代瑜伽部密教の曼荼羅論で金剛界九会曼荼羅、十八会曼荼羅の成立に大きく
影響を与えた。即身成仏義の六大体大・四曼相大・三蜜用大と言う即身成仏可能の理論的背
景となるもの。

「理趣経曼荼羅」まとめ、「七巻理趣経」と「理趣釈」
・単に理趣経曼荼羅といつても「七巻理趣経」・(理趣広経)と不空三蔵の「理趣釈」とに
 よりその所説を異にする。
・等しく不空三蔵の「理趣釈」を本として描ける曼荼羅もそれに種々の異図有り。3種有り
・尊形の代わりに種子を描く理趣経種子曼荼羅にも厳覚所説のものと心覚のものとの異りあ
 ること。
・普通に理趣経曼荼羅の本となつているものは「理趣釈」にしてその「理趣釈」に関して古
 来種々の議論あるものの、要するに、これは不空三蔵、勅を奉じて梵本から翻訳したもの
 と言うことになつているが,実際は、不空三蔵の撰述にすぎざること。750~771年。
・その「理趣釈」は「七巻本理趣経」を基本として成立したるもの。
・その「理趣釈」の基本となれる「七巻理趣経」の梵本は不空三蔵これを請来するも、途中
 で、全訳せずに滅した。唐大暦9年、774年入寂。その後225年経過した宋の時代に至り
 て初めて全訳せられたること、999年、これが法賢訳出の最上根本大楽金剛不空三昧大教王経・
 「七巻理趣経」である。
・「理趣釈」所説の曼荼羅は「七巻理趣経」のそれとは一見まつたく別種のものの如き観を
 呈すること。
・精細にこれを比較するに「理趣釈」の所説は、「七巻理趣経」のそれを改訂したるものに
すぎざること。
・「理趣釈」の所説は「七巻理趣経」のそれを改訂したるのみならず、「七巻理趣経」に無
 きものまでも他より補説せること。
・「理趣釈」は「七巻理趣経」を基本にしたとは言え四姉妹女天のごときは、文殊師利根本
 儀軌経より取り込んでいる。
・更に「理趣釈」の基本となる「七巻理趣経」は、大般若経600巻の般若理趣分578巻の教
 義を實修する為の儀軌として次第に発達し成立したるもの。また教主が釈迦牟尼仏で、他
 の類本は大毘盧遮那仏。
・西蔵譚の「百五十偈の経」並びに不空三蔵釋の理趣経のごときは、いずれも「七巻理趣
 経」中よりこれを略出しこれを整理したるもの。
・此れ等の略出せる理趣経には曼荼羅を説かざるも不空三蔵の「理趣釈」には広本を本とし
 てこれを補説しかつ改訂してある。
・その理趣経曼荼羅の枢軸をなすものは、初段の十七尊曼荼羅(十七清浄句曼荼羅)にして
 この曼荼羅は「八千偈の般若経」における菩薩の句義より発達し、それを象徴化したるも
 の。
・「七巻理趣経」所説の曼荼羅は何れもその一段に於ける教義の直接象徴化であるとともに
 「理趣釈」のそれはその間接的象徴化にすぎざること。
・教理説明の略全般にわたつて「唯識」の用語を駆使する。その意図は「如来蔵」を前提に
 して、その修道体系が構成される。唯識の教理に瑜伽密教の入曼荼羅―本尊瑜伽―三蜜・
四智印相応。