仏画コラム
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2-2 弘法大師空海著・般若心経秘鍵
弘法大師空海著「般若心経秘鍵」について秘鍵の概要。
一般的には般若心経に対する注釈書と説明されますが、むしろ般若心経を題材として空海自
身の思想を述べた書と言う方が適切です。秘鍵以外の般若心経の注釈はいずれも般若心経を
膨大な般若経典類のエツセンスを説いた経典、すなわち空海の言うところの顕教の経典とと
らえ大乗仏教の根幹にある空の思想に基ずく解釈を加えています。しかし空海は般若心経を
呪文を主体とする密教経典としてとらえる立場から、その内容を解説しています。
秘鍵は次の様な構成になつています、内容のあらましと共に紹介します。
1序、  敬礼と導入、秘鍵の主旨と基本的立場を述べます。
1、 帰敬序 最初の偈では、文殊菩薩と般若仏母に対して敬礼します。
2、 発起序 これから般若心経の意味を解説することを述べます。
3、 大綱序 仏の教えは自のうちにあるが、人々は気ずかずに過ごしている。仏が
    導く方法は人に応じて多様である、と言う事を名文で述べます。
4、 大意序 般若心経の全体像を般若菩薩の真言であり、その悟りの境地を明かす
      ものとゆう基本的立場から、概説します。
2正宗分、経典の題名、説者・説処・対告衆、翻訳について解説します。
1、 経の題号 仏説摩訶般若波羅蜜多心経 とゆう題名についての解説です。
2、 説処・聴聞衆 この経は、誰が、どこで、誰に対して説いたかを説明します。
3、 翻訳の同異 いくつかの漢訳を挙げ言葉の相違を指摘します。
4、 題名の余義 般若心とは般若菩薩の心真言である旨を述べます。
3五分の総論 経典を五つの部分に分かち、それぞれに名前を付けます。
  3-1、人法総通分、(総論)「観自在~度一切苦厄」まで。悟りに至る四段階と、悟
      りに至るまでの時間、と言う五つの部分に分けます。・・・25文字
  3―2、分別諸乗分、「色不異空~無所得故」まで。更に五つの部分的に分けます。
      ・・・108文字(舎利子)を除く。・・・6文字
3-2-1、建乗「色不異空~亦復如是」まで。現象と真実とが融合しあつているとする華
      厳宗の教えで普賢菩薩の境地とします。・・・24文字
3-2-2、絶乗「是諸法空相~不増不減」まで。八種の両極端を否定留守中観思想に充て
      られ、文殊菩薩の境地です。・・・17文字
3-2-3、相乗「是故空中無色~無意識界」まで。外界の存在を否定し全ては心のみであ
      るとする唯識思想の立場で、弥勒菩薩の境地です。・・・34文字
3-2-4、二乗「無無明~無老死盡」まで。十二因縁を悟る縁覚乗の立場、「無苦集滅
      道」を釈迦の声を聴いて道を得る声聞乗に充てます。…18文字と5文字、合
      計で23文字
3-2-5、一乗「無智~無所得故」まで。法華経や涅槃経の教えに従う天台宗の教えに充
      て、観自在菩薩の境地とします。・・・10文字
      合計108文字、(舎利子)を除く。
  3-3、行人得益分、般若を実践する人を顕教と密教に分け般若の教えには、(悟りの
      原因・悟りの修行・悟りの実証・涅槃に入ること、「因・行・証・入」と言う
      悟りに至る四段階が含まれている事を説きます。・・・58文字
  3-4、総帰持明分、全ての教えが明(真言)に帰結する事をときます。・・・34文
      字
  3-5、秘蔵真言分、末尾の真言の意味を一句ずつ解説します。最後に「真言は不思議
      なり、観誦すれば「無明」を除く。一字に千里を含み、即身に法如を証す」と
      言う有名な偈があります。・・・31文字
  4、問答決疑、 陀羅尼などの秘密の言葉の内容を説明しても良いのか、般若心経は、
    顕教の経典であり、その中に密教の教えを説くのは不適切ではないか
    と言う疑問点を問答形式に依つて補います。
  5、流通分、 本書を作つた主旨をもう一度述べて結びとします。
  6、上表分、 弘仁九年(818)の春と年号が入り、本書を作つた経緯が記されてい
    ますが、古くから真偽が疑問視されています。おそらく空海の文筆では
    なく門人筆記と思われますが、数年来に及ぶ大飢饉に追い打ちをかけて
    疫病が流行した年であつた事は事実で、空海が「般若心経秘鍵」を撰述
    し、嵯峨帝に写経を勧められ、嵯峨帝が紺紙金泥にて「一字三礼」と言
    う礼を尽くしての写経で、国家安念を祈願されました。
大同元年、806年空海33歳、唐より帰朝の時に、般若心経の瞑想法として「般若波羅蜜
多大心経」・「修習般若波羅蜜菩薩観行念誦儀軌」の二種を日本に請來されました。この大
心経は、阿地瞿多訳、観行念誦儀軌は不空訳のもので、大心経は心経系の瞑想法であり、雑
多な密教(雑蜜)部の瞑想法であり、観行念誦儀軌は、純粋な悟りを求める密教部の金剛頂
経系瞑想法であつた。空海はこの二種類の瞑想法を織り込み、印度・チベツト・中国・日本
のどこにもない瞑想法の立場から般若心経の注釈書を書かれた。それが「般若心経秘鍵」で
あります。「秘鍵」とは、その教えの扉を開く秘密の「鍵」である。

真言梵文 (般若大心陀羅尼第十六)
般若波羅蜜多大心経 陀羅尼集経・巻三所収 阿地瞿多訳
 即説呪日  羯諦  羯諦  波羅羯諦  波羅僧羯諦   菩提僧莎訶
 Tedyathā gate  gate  para-gate pāra-sa ṃgate  bodhi svāhā.

秘鍵の特色~何と言つても、大般若波羅蜜心経といつぱ、即ち是大般若菩薩の大心真言、 
三摩地法門なりと大意序で述べている様に般若心経を密教教典と解釈する点が特色です。  

真言宗豊山派 南蔵院住職 野口圭也先生「般若心経秘鍵」について 論文参考

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