仏画コラム
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27,愛染明王と愛染曼荼羅

P-87 胝愛染(喜悦愛染) 2.6×4.5尺丈

仏画

P-127 愛染曼荼羅 2.0×2.8尺丈

仏画
空海とインド中期密教 愛染明王と愛染曼荼羅 川崎一洋博士 論文参照
十八会曼荼羅の掉尾には、愛染明王が大きく描かれている。我が国では、この明王が理趣経
が説く煩悩即菩提の精神を象徴する尊格であると考えられ、恋愛を成就させるために修され
る敬愛法の本尊として広く信仰を集めてきた。その姿は一面六臂、身色は愛欲の炎に燃える
日暉のごとき真紅である。忿怒の相で三眼を有する。獅子冠を被り怒髪の中には金剛鉤をの
ぞかせる。第一の両手には金剛杵と金剛鈴、第二の両手には弓と矢を携える第三の右手には
蓮華の蕾を持つが、第三の左手の持物は修法の目的や施主の願意によつて変更する習いとな
つている。これは愛染明王の尊容を説く瑜祇経に「彼を持つ」としか記されていないからで
ある。実際の作例では、拳に握るか日輪を持つことが多い。十八会曼荼羅収載の愛染明王は
特に胝愛染と呼ばれ頭を少し左に傾けている。 真言密教の口伝によれば、愛染明王は金剛
界曼荼羅の東方輪に阿閦如来の四親近として描かれる金剛薩埵・金剛王・金剛愛・金剛喜の
四菩薩の特徴を一身に具えていると言われる。即ち第一の手に持つ金剛杵と金剛鈴は金剛薩
埵の持物であり、第二の手に持つ弓と矢は金剛愛菩薩の持物である。また頭上に載せる金剛
鉤は金剛王菩薩の持物である。愛染が頭を左に垂れるのは金剛喜菩薩の特徴を表現してい
る。空海は理趣経を解説した真実経文句の中で欲・触・愛・慢の四金剛菩薩を東方の四大菩
薩也として金剛薩埵・金剛王・金剛愛・金剛喜の四菩薩と同一視している。確かにこれら両
グループの菩薩たちはいずれも恋愛系の尊格であり、尊容にも共通点が多い。
愛染明王を説く瑜祇経はその正式名称を金剛峰楼閣一切瑜伽瑜祇経といい、空海によつて初
めて日本に紹介された金剛頂経系の経典で、金剛智三蔵の訳とされているが実際は中国で成
立した偽経の一種である。その為愛染明王の作例は印度やチベツトには遺されていない。但
しチベツト語訳のテキストのみが伝存する降三世大儀軌王という瑜伽部のタントラ聖典には
金剛杵と金剛鈴、弓と矢を持つ四臂の金剛薩埵を中尊とする十七尊曼荼羅の変化型が説かれ
ており、この聖典に出る金剛薩埵の真言、タツキ、フーム、ジャツハ、が瑜祇経では愛染明
王の心呪とされている。よつて降三世大王儀軌所説の四臂金剛薩埵を愛染明王の前身と考え
ることもできる。我が国には十七尊曼荼羅の中尊のみを愛染明王に置き換えた愛染曼荼羅の
図像が伝わつている。その本義とされる不空三蔵訳、金剛王菩薩秘密念誦儀軌にも金剛王と
呼ばれる四臂の金剛薩埵を中尊とする十七尊曼荼羅の一形態が説かれており、この儀軌は降
三世大儀軌王と関連する文献であると思われる。
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