仏画コラム
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6,五秘密曼荼羅

P-83 五秘密曼荼羅 2.2×4.0尺丈 宗叡請来本

仏画

白描図

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「幻化網タントラ」に見られる五秘密思想 大日寺住職 川崎一洋 博士論文参考

五秘密思想とは、般若と方便の合一した大安楽に住する金剛薩埵の境地を、男女交接の
快楽である妙適(surata)をもつて表し、さらにその境地に至る過程を愛欲を熱望すること
(kāmā)、接触すること(kelikilā)、愛念すること(snehā)、愛欲を自在になしたことへの
慢(garvā)の四段階に分け、 それらを順に金剛薩埵の妃である慾・触・愛・慢の四金剛女と
し金剛薩埵を、四妃が囲繞する五秘密尊として象徴化する思想である。
ここにいう大楽金剛薩埵の境地とは、理趣経の説く煩悩即菩提、染浄不二の教理に基ずき、
大乗菩薩としての真言行者が密教の行を実践することに依つて得られる成仏の悟境に他なら
ない。 五秘密尊は、 右手に金剛杵、左手に金剛鈴を持つ金剛薩埵を中心に、 慾金剛女
は花のついた弓箭を執り、 触金剛女は主尊金剛薩埵を抱擁し、 愛金剛女は羯磨幡を立
て、 慢金剛女は両手に金剛慢印を結ぶ姿で表現される。
またこれらの五尊は、同一蓮華座、同一円光に寄り添う形で描かれる。理趣広経の吉祥最勝
本初儀軌において五秘密曼荼羅は、布絵(rasris),サンスクリツトの原語は(pata)の曼荼羅とし
て説かれている。 布絵の曼荼羅とは、作檀の作法を経て土檀の上に描かれる曼荼羅ではな
く、 画布に描かれる曼荼羅であり、漢訳では(㡧像)ちょうぞうと呼ばれている。 理趣
広経及びアーナンダガルバの吉祥最勝本初広釈の記述によれば、布絵曼荼羅は日々の礼拝に
用いる曼荼羅であり、吉祥最勝本初広釈はこの曼荼羅を念誦(bsnenpa)のための曼荼羅と
呼んでいる。尚、吉祥最勝本初儀軌には布絵曼荼羅を用いて行う灌頂などの儀礼も説示される。
日本の作例では宗叡請来の理趣経十八会曼荼羅に含まれる図像が有名です。
この図像では、五尊が(慢―触―金剛薩埵―慾―愛)の順で配される。
色身は慢・黄色、触・白、金剛薩埵・白、慾・白赤、愛・青。

五秘密菩薩の真言
Oṃ ma hā sukha va jra  sattva  jaḥ   hūṃ vaṃ hoḥ su rata sattvaṃ.
唵  摩 賀 素佉  縛 惹囉 薩怛縛 惹   吽  鑁  斛  素 囉多 薩坦鑁.
オン マ カ ソキャ バ ザラ サトバ ジャク ウン バン コク ソ ラタ サトバン.

浄菩提心を本体とする金剛薩埵は、慾・触・愛・慢の四煩悩を調伏しそれぞれを金剛女
として眷属とする。 煩悩即菩提、の秘密を示す。これを五秘密と言う。大楽は悟りの歓喜、 
この種子の一つはサトバン(sattvaṃ)のサト(sat)で、金剛薩埵の略。バン(vaṃ)は大日如
来の種子で仏を我に入れ、我を仏に入れる。入我我入、生仏不二の義である。
ジャハ・フーン・ヴァン・ホーホーは一切生摂受のため、(鉤)でひつかけ、(索)綱で引
き寄せ、(鎖)でからめて留め,(鈴)で喜ばす と言う衆生教化の四摂で金剛鉤菩薩、金剛
索菩薩、金剛鎖菩薩、金剛鈴菩薩、の四摂菩薩の種子。金剛金縛りの句である。