A-60,61左上尊像二種、地蔵菩薩と大安楽普賢延命金剛薩埵位
此の曼荼羅は弘法大師空海の「般若心経秘鍵」の般若心経の解説の中に述べられる文章で
「夫佛法非遥心中則近。真如非外棄身何求。迷悟在我。則發心則到。」
「夫(ソ)レ仏法(ブッポウ)遥(ハル)カ二非(アラ)ズ、心中(シンチュウ)二シテ即(スナワ)チ近(チカ)シ。
真如(シンニョ)外(ホカ)二非(アラ)ズ、身(ミ)ヲ棄(ス)テテ何(イズク)ンカ求(モト)メ
ン。迷悟我(メイゴワレ)二在(ア)リ、則(スナワ)チ発心(ホッシン)スレバ、則(スナワ)チ到(イタ)ル。」
と導いています。
此の仏法を解き明かし、五輪塔の四面の梵字が胎蔵界の東門行である仏眼仏母菩薩の示す法
界生の世界を明かし、仏界へと導く事が出来る重要な曼荼羅になります。これは真言行者に
とつて三密行の初めの必須で要となります。真言行者の修行は、初歩は苦行を成し、身と心
の垢である三毒「他への欲望を起こし修行を外れる貧欲、理解出来ずに腹を立てて止めてし
まう慎欲、邪魔くさいと愚痴る邪心」を洗い流し真剣なる本気の境地を作りあげます。この
苦行が終われば次は般若心経の解読、理趣経の解読に入ります。般若心経は、大智度論、龍
樹の中論「生の根本原理、仏法、認識論、因縁品・・・、」や大般若経の般若理趣分の波羅
蜜多の原理を各三蔵法師達が説いたものです。この中に森羅万象を作り上げる仏法が、受・
想・行・識であることが説かれています。つまり波羅蜜多は受・想・行・識の多くの働きを
示していて、此の仏法を獲得しなければ、法界生の、生の根本原理は解けない訳です。法界
生とは虚空(宇宙の原点)の五大・五行の進行によって我々の生命が生まれる理論となり、
開眼作法で略して説いています。この法界生理論の達成者でなければ開眼供養はできませ
ん。理趣経加行、理趣経は、大般若経の般若理趣分の578巻を各三蔵法師等が般若心経と
理趣経とに二分して説かれた経典で現在の理趣経は不空三蔵の説くもので、弘法大師空海は
大日経より、この理趣経が良として、高野山ではこの理趣経を主として、唱えられていま
す。しかし重要な般若心経が、供養、廻向で唱えられないのは残念です。それは理趣経と般
若心経は元々一体であるからです。このことは、行者がよく使う、天和3年(1684)に慈海宋
順師が大般若理趣分で大般若経では578巻こそが重要であると、玄奘三蔵法師の結論文と
して、集約された経典を世に出しており、理趣経は瑜伽者(研究者)となるための三摩地
(研究者の能力向上)門の教えであります。その能力向上の為に三段より、十段までの八大
菩薩の考え方の理論を獲得出来れば、十一段で建立如来である瑜伽者になれるとあります。
初段にはこの力を持って十七清浄句門を理解せよとあります。ここで注意することは、密教
辞典の解説は、菩薩乗の中でも人の煩悩値の説であり声聞乗、縁覚乗の法界生の説明ではあ
りません。十七清浄句門は、本来の般若理趣分(578)巻の甚深微妙清浄法門である六十八・
九の有漏・無漏の法である。生死の原理である菩薩の清浄句義を不空三蔵が理解して十七清
浄句義に集約したものが、十七清浄句門なのです。故に、本来は両方の句門を修得する必要
があります。この清浄句門の修得によって、欲・燭・愛・慢の理を獲得出来るのです。これ
によって第一、物質のもつ、受・想・行・識と第二の生物のもつ欲・燭・愛・慢の理法を獲
得出来るのです。受・想・行・識の特性が物質の変化する因縁乗の根本である事、欲・燭・
愛・慢が龍樹菩薩の説く認識論・唯識の構成を作り上げる事を此の曼荼羅が示しています。
これより深く瞑想すれば、受・想・行・識が五大⇒五行⇒五神⇒五感の構成や欲・燭・愛・
慢が唯識である意識・末那識・阿頼耶識・奄摩羅識の構成に気づき五感の色と唯識の空が一
体であるから、色・即・是・空であることが理解出来る様になるのです。
この瑜伽者の引導を示すものがこの曼荼羅であり、この理を深く考える事によって、法界生
を獲得します。本物の阿闍梨と成る最重要の本尊がこれに当たります。この本尊を礼拝し修
業を成して、法界生の原理を習得して下さい。自分で考え悟る事が大切です。知るより考え
わかる事が阿闍梨の本質なのです。どうか開眼して下さい。
行法作法
・開経偈•無上甚深微妙法•百千万劫難遭遇•我今見聞得受持•願解如来真実義
・三帰•三境•十善戒
・発菩提心 オンボウジシッタ ボダハダヤミ
・三昧耶 オン サンマヤ サトバン
・般若心経
・理趣経 略は•百字の偈
・御真言
・両部大日 如来 オン アビラウンケン バザラサトバン
・不動(大呪) ナウマク サラバ タタギャテイビャク サラバボツケイビャク サバタ タラ
タ センダ マカロシャダ ケン ギャキ ギャキ サラバビキンナン ウン タラタ カンマン
A-60・地蔵菩薩 オン カ カ カ ビ サンマエイ ソワカ
A-61・大安楽普賢延命金剛薩埵 オン バサラ ユセイ ソワカ
・五輪塔真言 四面全部(法界生真言です)
東面 発心門 大円鏡智 キャ カ ラ バ ア
南面 修行門 平等性智 キャー カー ラー バー アー
西面 菩提門 妙観察智 ケン カン ラン バン アン
北面 涅槃門 成所作智 キャク カク ラク バク アク
・四波羅蜜
・金剛波羅蜜 オン バザラ バジリ ウン
・寶波羅蜜 オン アラタンノウ バジリ タラク
・法波羅蜜 オンタラマ バジリ キリク
・羯磨波羅蜜 オンキャラマ バジリ ケン
・五秘密菩薩(欲•触•愛•慢) オン マカソギャ バザラ サトバ ジャク ウン バンコク ソラタ サトバン
・大師宝号 南無大師遍照金剛
・廻向文 願以此功徳 普及於一切 我等与衆生 皆共成仏道
真言を唱える意義 (極秘 灌頂)
・両部大日如来真言 この両部大日真言は、悟りを開くには胎蔵界の方法論を会得して、
金剛界の悟りを得る事を示したものです。
・不動尊真言 修業の邪魔を成す三毒の垢を消滅して膨大な資料の経典•資料•宝具•曼荼
羅の解読を成就する、無我夢中の無動の精神を自分のものとする事を願います。
・地蔵菩薩真言 オン(帰命)カ(聲聞乗の成就)カ(縁を起す、受•想•行•識の理論の縁の覚
乗の成就)カ(菩薩乗の胎蔵界と金剛界)ビ サンマ(瑜伽•三昧耶によって)ソワカ(成就せよ)
・大安楽普賢延命金剛薩埵真言 経典の深い読解を休まない精神力です
・五輪塔四面真言(法界生)
・五大
・受想行識による縁行を五行と言う
・五神通
・五感で意識に繋ぐ神
・五智
・意識(唯識の意識•未那識•阿頼耶識•奄摩羅識•一一心識•多一心識)を持つ即身成仏の理を
知る。
・修行の十八界成就の法界生を達成する為の真言です。(十八道修行の行果の真言です)
・四波羅蜜真言
・仏法の本体真言
・五秘密真言
・心の作用を起し人の智恵を育て、唯識を作る真言。
・大師宝号
般若心経秘鍵への感謝を述べる真言。秘鍵は法界生の理を五乗の鑣(くつばみ)を持って五
輪塔の理を説いて下さったのです。
参考文献 高野山真言宗 現福寺 権大僧正 宮崎龍祥先生
仏画制作 大進美術株式会社