十二世紀を中心とする平安仏画の精髄
平安仏画、とりわけ十二世紀に相前後する仏画は当時の貴族たちの深い信仰と洗練された感
覚に支えられて格調高く、かつ繊細優美な様式を誇りおよそ絵画芸術の達した極致として、
一人我が国のみならず、世界的にも高く評価されています。本十三仏仏画は、平安仏画の基
本的な仏の「お顔」を表現し、儀軌に基ずき正しく描かれています。こと十三仏仏画につい
ては、教理を中心とする仏教学の立場から言えば、民間信仰に属するもので、重視されるべ
きものではありませんでした。周りの研究者や僧侶の口から十三仏の話を聞くことも稀でし
たし、聞いたとしても十三仏信仰に関わる僧侶でさえ、「それは民間信仰だから」と言う認
識を出るものではなかった様に思われます。このように正面から眺められることが無いにも
関わらず、十三仏の信仰は、古くより深く人々の心に生き続け、先祖供養と言えば十三仏軸
と言われる様に現在もなお多くの寺院と檀信徒を結ぶ絆の一つとなっています。本十三仏仏
画は、極楽の虚空の色である瑠璃紺の地色に月輪に各尊像を「お顔」のみで表現致しまし
た。まつたく新しいタイプの十三仏仏画であり、初めての試みであると思います。この新し
く表現された十三仏を契機として、民衆の生んだ曼荼羅とでもいうべき十三仏信仰が見直さ
れ、この十三仏が、今は亡き愛する人の冥福を祈る人々、各地に残る石碑に思いを馳せる
人々、仏教の信仰を説き或いはそれを受け入れる篤き人々のよすがとなり、御本尊としてお
祀りして頂ければ望外の幸せです。描かれた各尊像の簡単な説明を記します。
【弘法大師空海】
真言宗開祖、延期21年(921)10月27日、東寺長者観賢の奏上により醍醐天皇から
「弘法大師」の諡号が贈られた。真如親王様式の空海の御影、高野山の檀上伽藍の御影堂に
奉安されている高岡親王が描いた空海の御影の御姿で、空海の肖像で、もっとも流布されて
いる姿です。
【不動尊】
一七日、は秦広王で本地仏は不動尊、不動尊は空海によって、日本に初めて請来されまし
た。東寺には空海の念持仏とされる不動尊があります。空海が自ら一刀三礼されて造られた
と伝承されています。一般的には、大師流不動尊と呼ばれる。青黒肉の座像で、直毛、左に
弁髪を垂らす、両眼見開きで、上歯下唇を咬む、額に水波あり、弁髪の姿は奴僕の形を意味
する、大日如来の下僕としてひたすら衆生済度に没頭する事を示す頭頂の蓮華は、憤怒形に
対して内に秘めた慈悲を表す、水波は六道に輪廻して苦しむ衆生を思いやる心である。
【釈迦如来】
二七日、は初江王で本地仏は釈迦如来、初七日で不動尊の秘密呪を念じ、一転して釈迦への
供養が増大する十三仏に関する真言宗の基礎資料は、「弘法大師逆修日記事」でこれは空海
にあやかって整えられた十三仏の功徳を諸経典より集めたもので初七日の不動尊より始ま
り、三十三回忌の虚空蔵で終わっている。釈迦は華厳宗の所説になっている。いずれも大覚
にいたった悟りの釈迦を供養する。それは「十三仏種子等次第」では釈迦如来、久遠成道、
皆在衆生、一念心中、と述べるように釈迦の成道したすべてを自ら念じることによって、目
に見えない心にしまいこむのである。
【文殊菩薩】
三七日、宗帝王は本地仏文殊菩薩、文殊菩薩は大乗仏教の悟りの智慧を象徴する菩薩とされ
て智慧第一の位にある。密教では一字・五字・六字・八字文殊と頂髪を童形に一結、五結、
六結、八結と結び方によって、区別しており、一般的には五髪文殊が最も多い。五髪文殊
は、息災が本願であり利益大であるとされる。
【普賢菩薩】
四七日、五官王は本地仏普賢菩薩、普賢菩薩は普現の神力を持ち、観音の様に三十三身に化
身して、十九説法をされるため、どこにでも出現されるので定まった姿がないとされている
が顔立ちは「色身は定準なし」と言われるほど女に負けない美しさの顔立ちで、白象に乗っ
ている。胎蔵曼荼羅においては、中台八葉の東南と文殊院に住しており、相好は右手に金剛
杵を左手に金剛鈴を持ち、五仏の宝冠を戴き,合掌せられている。
【地蔵菩薩】
五七日、閻魔王は本地仏地蔵菩薩、釈迦滅後の弥勒菩薩がこの世に出現するまで、この世に
法を説き衆生を救済する仏がいない為、地蔵菩薩が修行僧の形でこの世に現れ六道の衆生を
救うように仕属された菩薩、平安後期の頃から阿弥陀の極楽・地獄信仰と結びつき冥土で死
者の苦しみを救ってくれるものとして信仰が流行した。
【弥勒菩薩】
六七日、変成王は本地仏弥勒菩薩、弥勒菩薩は実在の人間であって釈迦の弟子となり強化を
受けて釈迦に次いで次の世は仏と生まれる補処の菩薩、補処の薩埵とも呼ばれている。五十
六億七千万年先の将来にて必ず成仏して如来となる約束がなされていることから、未来仏、
当来仏ともいっている。須弥山の最頂上に位する兜率天の内院に現に住しており、説法しな
がら、自らも修行をして将来成仏する時を待っていると説いてある。宝冠には五輪塔が描か
れる。
【薬師如来】
七七日(満中陰)太山王は本地仏薬師如来、東方瑠璃光世界の教主で、人の寿命を延ばすこ
とを本願とする仏で、昔は医術が大変に幼稚であつた為、病気になると人々は仏の威力に願
って病根を除くことが一番近道と考えられて、薬師信仰する人が広まった。普通薬師如来
は、薬壷を持った尊像とされるが、古くは通仏相で施無畏、与願印の姿であった為、他の仏
と区別するに見分けがつかなかった、後に左手に薬壷を乗せ右手を与願印とする尊容に変わ
り、薬壷を持つか、摩尼珠をも持つ像とされた。
【観音菩薩】
百ケ日、平等王は本地仏観音菩薩、観音菩薩は宝冠に坐像の化仏を戴き、観音は常に阿弥陀
仏の脇侍として勢至菩薩と共に侍立している。西方極楽世界阿弥陀国に在って慈悲の象徴と
なり智慧を表す勢至菩薩と相対して阿弥陀如来の聖化を助けて人間世界に現れる。時には三
十三の姿に変化して民衆を救ってくださる。
【勢至菩薩】
一周忌、都市王は本地仏勢至菩薩、勢至菩薩は宝冠に、宝瓶を戴き、阿弥陀の右脇侍とし
て、観音が慈悲門であるのに対して勢至菩薩は智慧門を司り、浄土三尊仏の一尊として、智
慧の光を持って、あらゆるものを照らしその苦を除く菩薩。
【阿弥陀如来】
三回忌、五道転輪王は本地仏阿弥陀如来、計り知れない寿命を持つものが無量寿命、計り知
れない光明を持つものが無量光明で、この二つを合わせて阿弥陀仏としてあり、二つの徳性
を備えた仏陀と言うことで、救済仏信仰によって出現した仏であって現在も西方極楽世界の
教主として説法している。無量寿経に説く阿弥陀はインドの王侯の太子として出生、世自在
仏の感化により出家、名を法蔵比丘と改めて五劫の長い間思惟して四十八の誓願を成就さ
れ、長い時を経て、願行が成就して阿弥陀仏となり、西方極楽浄土を建てられた。
【阿閦如来】
七回忌、蓮上王は本地仏阿閦如来、阿閦仏国経に、東方遥か千の向こうにある阿比羅提世界
で大日如来が説法をしたとき、一人の比丘が仏にむかつて、仏道を求める心を起こし瞋恙と
淫欲を断ち、正覚を成就するまで努めますと誓願し、長年の修行の後仏となり東方妙喜世界
の浄土の善快国の王として老後も教化済度に当たっている。胎蔵曼荼羅においては、大日如
来の東方に坐す天鼓雷音如来が阿閦仏。
【大日如来】
十三回忌、抜苦王は本地仏大日如来、大毘盧遮那如来とも呼ばれ密教では最高至上の絶体的
な教主として尊敬される。大日如来の智慧の光明は、昼夜の別ある日の神の威力をはるかに
上回る事から、大の字を入れて大日如来と名付けている。大日如来は金胎二つの姿があり、
金剛界大日は智慧の法身で智拳印を結び胎蔵大日は理徳の法身で法界定印を結ぶ、ともに五
智の宝冠を戴く。
【虚空蔵菩薩】
三十三回忌、慈恩王は本地仏虚空蔵菩薩、無尽の宝庫で智慧や財宝を容る事が出来る蔵の意
味からこの名があり、計り知れない智慧と福利を具えて常に人に与えて願を満たす菩薩。お
姿は種々あるが、右手に智慧の剣を持ち、左手は摩尼の宝珠を持つ姿が胎蔵曼荼羅の虚空蔵
院の主尊である。
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