弘仁十二年 辛丑(821)仲冬日 般若心経秘鍵 心経 264文字
空海は、「般若心経」の講釈において、「般若心経秘鍵」を説き、「心経」を写経されまし
た。般若心経全体を六つに分類され説明されました。
1、 経題~心経~2文字
2、 人法総通分~心経の総論~25文字・・・・蜜
3、 分別諸乗分~華厳宗、三論宗、法相宗、縁覚・声聞、天台宗~108文字・・・
空・聲
4、 行人得益分~得益~58文字・・・・蜜・遠・夢・想
5、 総帰持明分~真言(マントラ)の名称と本質と功用~34文字・・・・是・
無・等・等・真
6、 秘蔵真言分~般若波羅蜜菩薩の心呪~34文字
空海47歳の時、唐より帰朝15年目、弘仁十二年、辛丑821年、仲冬日、11月に書写
された空海筆の「心経」で、全体をじつくりと観察して見ますと、楷書・行書・草書・隷書
の四体を交えて書かれており、また(蜜)・(聲)などの草書を見ますと、これは梵字では
ないかと、驚くはずです。この梵字の書法(飛白体)がすべての字に応用され、それで全体
の一体感が醸し出されています。この様な書法は破体心経と呼ばれており、破体とは後漢時
代の初期、隷書と篆書を交える形で登場し、すでに二千年を経ていますが、非常に珍しく、
かつ貴重なものです。書法と美学の異なる複数の書体を混交して文全体の調和をとるのはと
てもむつかしいとされています。空海の達筆は有名で、日本では空海・嵯峨天皇・橘逸勢を
三筆と尊称されています。「弘法筆を選ばず」「弘法も筆の誤り」など空海と書道にまつわ
ることわざが残されています。また唐土においても順宗皇帝が空海に「五筆和尚」の称号を
与え、菩提樹念珠を賜つたと伝説が残されています。これは、空海が楷書・行書・草書・隷
書・篆書の五種類の書体に通じていたでしょうから「五筆和尚」とは、多くの書体を使い分
けた事に由来すると言われます。この心経において空海は、重要な思想(密教)の教えをも
織り込んで居ます。これを示すため、強調する文字は、大きく書いており、十二の文字が書
体を変え、大きさを変えて書かれています。我々が般若心経を写経する時の写経用紙の縦の
罫線もありません。また、筆による写経ではなく、木筆のようで、木筆は柳の小枝を叩いて
繊維状にし、小さな刷毛にしたものです本来一つの文は一つの書体で書くのが原則ですが、
空海は意図して複数の書体を交え、密教構想をも織り込んで、この「心経」を書写されてい
ます。まずは、般若心経秘鍵をじつくりと読んでいただき、そのあとこの心経をよくご覧く
ださい。空海の心経に込めた深い想いが必ず浮かび上がってくると思います。世に心経は、
たくさん有りますが、木筆で五種類の書体を交えて、さらに密教思想を織り込んだ様な心経
は、この心経以外一点もありません。この心経に巡り会えた吉祥縁に深く感謝致します。
・・・・・南無大師遍照金剛・・・合掌
7、 空・海・想の3文字~心経に込めた空海の構想・・・・十二因縁と十二大
大日経)大悲胎蔵曼荼羅、三角智院示す。三ヶ所の体制で祈り護国豊穣をなす。
蜜~心経の総論、般若心経は蜜教の陀羅尼文献である。真言乗六波羅蜜を修行せよ。
空・聲~般若の空は、聴聞する人の側に在り、声や字で説く心経の側には非在であ
る。聲く側の問題で、一切の現象界の事物を、五蘊皆空「色・受・想・行・識」仏教を
主体的に如何に受け止めるかと言う点を個々に投げかけている。
蜜・遠・夢・想~蜜教の教えは真言乗の人、般若の智慧により、一切の迷夢を
遠離し、究竟涅槃する。迷いにとらわれず妄信する事を一切顛倒夢想する。夢想は、夢
の中でのお告げ、夢に見た事柄。
是・無・等・等・真~是大神呪~声聞乗、仏の教えを聴いて悟る人の真言。
是大明呪~縁覚乗、独自に悟る人の真言。是無上呪~大乗・顕教の人の真言。是無等
等呪~秘蔵・真言密教、真言乗の人の、真言。超最勝で並ぶもののない呪文である。
それは、真言の陀羅尼には、加持力がある。それが心経末尾のマントラである。
般若大心陀羅尼(大心真言)・大心呪
Ted yathā gate gate pāra-gate pāra-saṃagate bodhi svāhā.
即説呪日 羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶
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