仏画コラム
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7-3、真言密教両部秘蔵曼荼羅  覚鑁臨終御本尊
続 真言密教成立過程の研究  文学博士 櫛田 良洪 昭和54年(1979)
一般に人間の色や言葉や概念による世界・認識には限界があり、近代の科学的論理的認識や
合理的証明では把握しえない世界であることに気ずくべきです。しかし我々の思考(知)の
視点でほとんどの世界(対象)を捉えているのが現状なのです。
この視点とはまつたく異なる(智)の視座に立つとき、論理的・理性的認識の把握しえなか
つた世界の本質・真理へ迫る事が出来ると思います。これが今回の仏画 両部秘蔵曼荼羅
(覚鑁臨終御本尊)であります。覚鑁聖人の曼荼羅観の根本は、五輪曼荼羅観であり、それ
が即大日であり、阿弥陀であると言うのが五輪九字明秘密義釈であり「密厳浄土略観」に
は、・・・ つぎに浄満月輪あり、つぎに八葉華王あり。上に種子法身あり。体性明浄にし
て光沢鮮白なり。万徳を成就し、二利を円満せり。種子転じて無所不至の五大所成の法界塔
婆となる。五智の色光を放つて、無辺の仏刹を照らし、衆徳円備して、三密具足す。塔婆変
じて周遍法界の浄妙法身大日如来となる。・・・  法界塔婆観とも換言できるが五輪曼荼
羅観と関連性があり、さらに月輪・八葉・種子・法界塔婆・五智の色光・そして大日とあ
り、自身即塔婆、塔婆即大日と言うことになる。本尊図(五輪形)が臨終の本尊とするなら
ば、まさに密厳浄土の観を五輪曼荼羅でもつて観じることができるのである、また、空海の
「声字実相義」は、我々に宇宙の真理や世界の本質を直接開示することの出来る(智)の視
座を与えてくれていると思います。
「五大に皆響有り 十界に言語を具す 六塵に悉く文字あり 法身は是実相なり」金胎理智

不二・両部秘蔵曼荼羅に描かれた 各種大日如来の真言 や 五輪塔図 及び心月輪 や
五智如来 の色彩や金箔による光の表現(光耀表現)はまさしく声字(隨縁)即実相(法
爾)の世界なのです。本図両部の基になつた白描図像は昭和12年,(1937)に櫛田良洪博士
(大正大学学長・故人)が32歳の時に金沢文庫にて発見された図像を一部修正を加え、金
胎双幅、或いは単幅に描きなおし復元制作しました。この白描図像の裏書には、秘蔵・覚鑁
臨終本尊と記されております。白描図像発見より今年で令和と年号も変わり82年が過ぎ去
りました。
「真言密教両部秘蔵は法身大日如来が、自受法楽の為に演説する境地であると考えます。」
両部秘蔵曼荼羅(覚鑁臨終本尊)は両部の曼荼羅同様、宇宙の縮図であり、須弥山の世界観
が反映されている。五輪塔の方形・円形・三角・半珠などの形も俱舎論の影響が大きい。
現在通説に一致する塗り分け「初会金剛頂経」の釈タントラの次の一偈を典拠とする。
「青・黄・赤・緑」は、持羯磨者・不空成就であり如来部(毘盧遮那)の身色は麗しき白色
であると称される。東方阿閦は、金剛部主であり金剛部に対応する修法は降伏法なので、阿
閦の身色は青色、南方宝生如来は宝部主であり宝部に対応する増益法は黄金色、この様に五
仏の修法の色により塗分けた。この説はブツダグヒヤ、アーナンダガルバが現れた8世紀半
に成立。他の異説を排しつつ後期密教にも基本的に継承され五仏の身色に関する定説として
定着した。その他異説にも合理的な根拠があつた。異説は五仏の身色を須弥山世界の色と一
致させたものらしいと言うのが須弥山の護法神、四天王、四天下の色に塗分けられている。
方位 形   四天王     方位  須弥山の四面    四大州
東― 半月― 持国天―白色  東側― 白色・銀色―    東勝身州
南― 三角― 増長天―青色  南側― 青色・瑠璃色―   南贍部州
西― 円形― 広目天―赤色  西側― 赤色・紅玻璃色―  西牛貨州
北― 方形― 多聞天―緑色  北側― 金色・黄金色―   北俱盧州
太陽が南贍州の上に昇ると須弥山の南面の青色瑠璃が天空に照り映えて空が青くなる。同様
に太陽が西に沈むと須弥山の西側の紅瑠璃が天空に照り、映えて空が紅くなると考えられ、
俱舎論では四大州の形状が、地・水・火・風の五輪塔と一致している。俱舎論以来、須弥山
世界は、劫初に虚空より一陣の風が生じて以来、四大が次第に生成して形成されると説く。
四大州の形状は須弥山世界の質量因である四大の形状を反映すると考えられた。
制作仏画   大進美術株式会社

須美山図

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五輪塔図

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