仏画コラム
About sects

25,理趣経 十七清浄句曼荼羅
空海とインド中期密教 理趣経の曼荼羅 川崎一洋博士 論文参照
十七尊曼荼羅の尊格構成には、幾つかのバリエーションが有りますが、標準となるタイプは 
中尊の金剛薩埵の四方に、欲・触・愛・慢の四金剛菩薩を配し内供養に、華・香・灯・塗の
四供養女、外供養に、嬉・笑・歌・舞の四供養女、四門に鉤・索・鎖・鈴を巡らせる構成で
ある。理趣広経「真言分」のほか、金剛薩埵儀軌類の多くがこの配列を説いており、中央チ
ベツトのシャル寺南堂やネパール領ムスタンのローマンタン弥勒堂などチベツト文化圏に遺
る作例では、この構成が採用されている。
中尊、金剛薩埵は金剛杵を手にして釈尊を護衛した守護神を起源とする金剛手と大乗菩薩
の理想像として華厳経などに説かれる普賢が合糅した尊格で、理趣経と関係の深い真実摂経
では、聖なる真理の世界と俗なる衆生の世界をつなぐ媒介者として、大きな役割を果たす。
十七尊曼荼羅を説く儀軌では、特に「大楽」の語を冠して大楽金剛薩埵と呼ばれ、その真言
として、「オーム、大楽金剛薩埵よ、ジャツハ、フーム、ヴアム、ホーツホ、汝は妙適であ
る。が説かれている。」妙適とは、サンスクリツト語の「スラタ」の訳語で性交によるエク
スタシーを意味する。大楽とは涅槃の境地をその快楽に譬えた言葉であり、理趣経では、金
剛薩埵は大楽の境地を自身に示して、衆生を涅槃の世界へ誘うと考えられた。真言の中にあ
るジャツハ、フーム、ヴアム、ホーツホ、の四つの種子は、行者が大楽金剛薩埵を自身へと
招き寄せ、引入し、縛り、合一する、四つのプロセスを象徴している。大楽金剛薩埵は、日
本、中国、チベツトを問わず、ほとんどの作例で、右手に五鈷金剛杵、左手に金剛鈴を持つ
姿に表現されている。その身体の色は月のような光輝く白色、或いは水晶のようであると説
かれる。
四金剛菩薩、 金剛薩埵の大楽の境地を四つに開いたのが四金剛菩薩である。これら五尊は
まとめて、五秘密尊と呼ばれる。
欲金剛菩薩は、 矢を持つて、それを射る姿勢を示す。身色は赤色。金剛眼箭、意生金剛と
も呼ばれ異性を見て恋に落ちる様子を、矢の飛ぶ速さで表現している。
触金剛菩薩、 両手を胸の前で交叉させて、大きな金剛杵を抱きしめる。身色は白色。金剛
ケーリキラとも呼ばれ、男女が戯れ、互いに触れ合う過程を象徴する。
愛金剛菩薩、 念金剛という別名を有し摩羯幢を立てて持つ。身色は青色。摩羯幢とは、マ
カラという伝説上の大魚を載せた旗竿。何でも飲み込んでしまうマカラは、貧愛のシンボル
である。
慢金剛菩薩、 金剛拳を結んだ両手を腰の左右におき、頭を少し左に傾ける。身色は黄色。
その姿は異性を手中に収めた慢心を表現している。
八供養女、 標準型の十七尊曼荼羅において、内院の四隅に描かれる金剛華・金剛香・金剛
燈・金剛塗の四供養女は、春・雲・秋・冬という四季の名でも呼ばれ、順に供花、香炉、灯
明、塗香器を持つて中尊を供養する。金剛界曼荼羅において、外供養とされる金剛香・金剛
華・金剛燈・金剛塗の四尊に似るが、金剛香と金剛華の順序が逆になる。理趣広経には、こ
れら四尊について「頂上で合掌する」と説かれており、チベツトの十七尊曼荼羅の作例で
は、両手を頭の上に持ち上げて合掌し、そこに各自の持物を載せる姿で描かれている。一方
外院の四隅  に.描かれる金剛嬉・金剛笑・金剛歌・金剛舞の四供養女は、金剛界曼荼羅
において、内供養とされる金剛嬉・金剛鬘・金剛歌・金剛舞に似るが、金剛鬘が金剛笑に替
わる。金剛嬉は両手に拳を結んで腰の左右に当てる金剛慢印を結び、金剛笑は歯鬘を持ち、
金剛歌は堅琴を奏でながら歌い、金剛舞は舞踊の姿勢をとる。
四摂菩薩、  曼荼羅の四方に設けられた四つの門に配される金剛鉤・金剛索・金剛鎖・金
剛鈴の四尊は、金剛界曼荼羅の四摂菩薩に一致する。四摂菩薩は門衛であるばかりではな
く、衆生を曼荼羅に鉤で招き寄せ、羂索で引き入れ、鎖で縛り、鈴を鳴らして本尊に合一
させる働きを担つている。大楽金剛薩埵の真言に出たジャツハ、フーム、ヴアム、ホーツホ
の四つの種子は本来、四摂菩薩の機能を象徴する種子である。般若理趣釈や十七尊義述で
は、四摂菩薩が順に色・声・香・味の尊名で呼ばれる。これは十七清浄句との関係にちなむ
ものであり、持物としては従来どうりの鉤・羂索・鎖・鈴が説かれている。ただしチベツト
に遺る理趣広経・般若分の金剛薩埵曼荼羅の作例では、アーナンダガルバの注釈に従つて、
順に鏡・琵琶・法螺貝の香器・神饌器を持つ 金剛色・金剛声・金剛香・金剛味の四菩薩が
四門に描かれる。この金剛薩埵曼荼羅は、十七尊曼荼羅に八大菩薩や金剛界四仏を加えてで
き上がつた、より規模の大きな曼荼羅である。

仏画

仏画

仏画

仏画