仏画コラム
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24,御七日御修法用五大尊
大威徳明王・軍荼利・不動・降三世・金剛夜叉(五大尊像 五幅 東寺本)
この五大尊像は、大治二年(1127)制作の五大尊像の写本で御七日御修法に用いられた十二天
像十二幅と共に元禄年中に作られたものである。現在より331~315年前に描かれた。諸尊の像
容、持物、焔光等は非常に忠実に写されているが、容貌、模様については時代性が明確であ
る。この尊像は、現在東寺灌頂院で毎年厳修される御七日御修法に奉祀されているものであ
る。御修法の道場では内陣北壁代の中央に西から大威徳、軍荼利、不動、降三世、金剛夜叉
の順に奉掲された。
絹本着色 各巾126㎝✕各丈167㎝、江戸時代(大治二年) 五大尊像 五幅対 東寺本
此の五大尊像には、鳥羽院院生の栄えた時代背景を反映して、多面多臂の憤怒相にも一種の
華やかな美しさがあらわれている。各尊の肉身は調伏を示す青色だがこれに白緑の隈取りを
つけて醜い青黒色とする儀軌の定めを和らげ、片足を蹴り上げる姿勢にも激しい勢いはな
く、そのうえ背後に燃えさかる火炎光は完全に文様化された渦巻火炎光でこれが茶白地にく
つきり鮮やかな赤色で描かれ明王のあやしい美しさをいやがうえにも書き立てている。しか
も明王達のまとう条帛や裳などには周辺を明るくぼかした 照り隈 と称する藤原仏画独特
の装飾化された隈取りをつけこれに繊細な截金文様を地文とした円花文を所々に配し目覚め
るばかり華麗である。東寺講堂の五大明王とこの五大尊像を比べてみると、彫刻と、絵画と
の相違があるのは勿論だがその上に重厚怪奇な貞観美術と優美繊細な藤原美術との相違が歴
然として存在する様が看取される。
現在密教系の寺院の一部で見られる五大明王像を説いた経典を探してみますと、仁王経 と
それに対する注釈書である略称 仁王念誦儀軌 をあげることが出来ます。仁王経には二種
類の漢訳本があり姚秦(384~417)の鳩摩羅什が翻訳した 仁王般若波羅蜜多経 と唐代の中
頃に不空三蔵によつて再び重訳された 仁王護国般若波羅蜜経 の二本があります。前者を
旧訳仁王経、後者を新訳仁王経と呼び五大明王の前身といえる五大力菩薩の名前が初めて説
かれるのは旧訳仁王経の受持品でそこでは金剛吼菩薩・龍王吼菩薩・無畏十力吼菩薩・雷電
吼菩薩・無量吼菩薩の五人の菩薩の名前があげられます。ここではまだ 明王 と言う名称
ではなく、菩薩 となつている事も注意しておく必要があります。五尊の名称の最後にはす
べて 吼 と言う語がつきます。この字は 吠える とか 叫ぶ と言う意味で大声を出し
て悪しきものを調伏する働きを持つています。此の経典では各尊の姿や形などについて説明
がありませんので正確な図像は不明ですが、これらの五尊が五大力吼菩薩とか五大力尊とよ
ばれるのですが、まだ明王と言う名称を使わず不動明王を筆頭とする五大明王の名前が現れ
ていないことには留意しておかねばなりません。例年2月23日に京都・醍醐寺の五大力さ
んの行事は旧訳本に基ずいており、旧訳の仁王経はすでに奈良時代には我が国に請来されて
おり国土の安穏を祈願する鎮護国家三部経の一つとして、それを講讃する仁王会も中国の故
例に則つて幾度となく催されていたようです。旧訳仁王経で五大力尊として出発した五体の
忿怒尊は不空三蔵(705~774)の仁王護国般若波羅蜜経、いわゆる新訳仁王経では、金剛波羅
蜜多菩薩・金剛手菩薩・金剛宝菩薩・金剛利菩薩・金剛夜叉菩薩と言う五体の金剛界密教系
の尊格として再登場します。不空三蔵は仁王般若波羅蜜念誦儀軌、略称仁王念誦儀軌を注釈
書としてあらわし、金剛界曼荼羅の中から抽出された五種の菩薩の名を上げて、修行すると
ころの願いにしたがつて姿を現す存在(正法輪身)と大日如来の教勅を受けて難化の衆生を
導く為に恐ろしい姿を現す存在(教令輪身)の二種がある事を説いています。
東方 金剛手菩薩   降三世金剛
南方 金剛宝菩薩   甘露軍荼利金剛
西方 金剛利菩薩   六足金剛
北方 金剛薬叉菩薩  浄身金剛
中方 金剛波羅蜜菩薩 不動金剛
つまり一つの仏に。柔和な姿と忿怒の姿の二種があるわけですが後に更に本体となるべき如
来、特に金剛界五智如来を合わせてこれを(自性輪身)と呼ぶようになるのです。この自性
輪身・正法輪身・教令輪身の三種を一般に三輪身と称しています。この三輪身説を明確に説
いたのが不空訳と伝えられる摂無礙経で五大明王に注記する形で、
(五仏)   (五菩薩)  (五忿怒)
毘盧遮那仏   般若菩薩   不動尊
阿閦仏    金剛薩埵菩薩  降三世
宝生仏    金剛蔵王菩薩  軍荼利
無量寿仏   文殊師利菩薩  六足尊(大威徳)
不空成就仏  金剛牙菩薩   金剛夜叉
と言う対応を示しています。この表を見ると五菩薩の内、仁王念誦儀軌の南方の金剛宝菩薩
が金剛蔵王菩薩に代わつていること及び浄身金剛(烏枢沙摩明王)が金剛夜叉明王になつて
いること以外は殆ど同じです。いずれにしても摂無礙経において、三輪身の教えが完全に出
来上がつたといえます。

参考文献 東寺の明王像 東寺宝物館 本
     曼荼羅の仏達 頼富 本宏 本

制作仏画    大進美術株式会社    令和元年7月21日

P-116 不動尊

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P-114 大威徳明王

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P-115 軍荼利明王

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P-117 降三世明王

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P-118 金剛夜叉明王

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